住宅ローン不正利用の防止 ②進化する手口(ワルと貸し手のイタチゴッコ)

■ 今回のポイント

  • バブル崩壊以降住宅ローン不正利用は悪質性を高めていきました。
  • 源泉徴収票や納税証明書(所得金額用)を偽造することにとどまらず、架空の収入・所得を申告して納税することにより、正規の証明書を不正に取得する手口まで出現します。
  • 不正利用の決定打はありませんが、①収入・所得額の下4桁がゼロ、②購入住宅の所在地や勤務先と申込先金融機関とが不自然に遠い、③申込者が販売会社・仲介業者の従業員、のいずれかに該当したら注意して審査する必要があります。

②進化する手口

 前回は住宅ローン不正利用の古典的手口として”工事費水増し”と”投資用不動産への住宅ローン利用”をご紹介しました。いずれも適正な住宅ローン利用ではありませんが、目的はともあれ申込者本人が住宅を取得しローン返済を続けていく意志があるという点で、私文書偽造などの犯罪になる可能性はあるもののワルさの度合いも”半ワル”程度と云えます。

 しかし今回ご紹介する手口は悪質度が高くなってきます。平成3年に、バブル経済が崩壊するのと同じ時期に暴力団対策法が施行されたのですが、企業をターゲットとした大口の経済犯罪がしにくくなった時代背景や、その後のデジタル技術の進展により、個人金融取引としては最も高額な住宅ローンに本物のワル達が目を付けたという構図ではないかと筆者は推測しています。

 これからご紹介する手口では、基本的にワルグループ内で申込人役、会社側役を役割分担し、不動産業者(中古仲介業者が多い)を引き入れて購入価額を高く見せかけ、架空の購入価額と実際の購入価額の差額を詐取するのが常套手段であり、ワルグループの目的には住宅取得はなく融資金の詐取ですから、住宅ローンは極めて早い段階で返済が滞ることになります。

<進化する手口(1):源泉徴収票・公的収入証明書偽造>

 日本では、企業が従業員に対して支払う給与に対しては原則として当該企業に所得税を源泉徴収する義務が課されています。源泉徴収票は1月から12月までに間に企業が個々の従業員に対して支払った給与の支払総額や源泉徴収した所得税額などを表示した書面で、税務署に1通を、本人にもう1通を交付することになっています。また、公的収入証明書には税務署が発行する納税証明書と市町村が発行する住民税課税決定通知書があります。さらに納税証明書には所得金額用と納税額用があります。

 ワルはこれらの収入を証明する書面発行の仕組みを巧みに使って住宅ローンの詐取を企むのです。

 まず会社を設立し従業員を雇ったことにしたり、個人事業の開業届けを出します。次いで、従業員に給与を支払ったことにして源泉徴収票を偽造したり、確定申告により個人事業に係る所得額を申告します。このときカネをかけたくないワルは税務署への納税は全くせず源泉徴収票を偽造したり、税務署へは所得金額は申告しその直後に所得金額用の納税証明書を発行して貰ったりします。

 そんなことができるのかと思われるかもしれませんが、源泉徴収票はそもそも企業が発行するものですから企業と従業員がつるめば簡単に偽造できます。納税証明書(所得金額用)は納税未納額の有無にかかわらず発行されるのです。また、住宅ローンの審査プロセスでは税務署に所得税未納額の有無などを照会する手順などない(照会しても回答してくれない)ので、申込書に添付されたこれらの源泉徴収票や納税証明書(所得金額用)を真正なものと審査担当者が判断すれば融資の承認がされてしまうのです。(個人信用情報照会で引っかかれば別でしょうが…)

 筆者の経験では、この手口を見破る観点は次の3つです。

①源泉徴収票や納税証明書(所得金額用)記載の収入金額・所得金額の下4桁が丸い数字(ゼロが4つ)であること

②申込人が購入する住宅の所在地や勤務先と申込先銀行が不自然に遠いこと

③申込人が住宅販売・仲介業者の従業員であること

 ①については、会社役員の場合や自営業者の場合にはしばしばあり得ることですが、同じ住宅事業者の扱い案件でしばしば見受けられるとしたら怪しく思うべきでしょう。②については、通常金融機関は地元の事業者・自営業者などの情報には詳しいので、ワルはばれにくいように購入地や勤務先(と称する事業所の所在地)から離れている金融機関を窓口にしようとする傾向があるのです。③については、何といっても従業員であれば共謀しやすいからです。

 この3つの観点のうち1つしか当てはまらない案件は『注意を要する』程度でしょうが、2つ以上当てはまるとすれば『ネガティブスイッチ』を入れて考えるべきでしょう。

<進化する手口(2):正規の公的収入証明書を不正取得>

 バブル崩壊後しばらくの間、詐取の手口は収入証明偽造が主流でしたが、これで痛い目にあった金融機関は「源泉徴収票だけの提出ではローン実行しない」、「公的収入証明書でも、ローン実行までに納税証明書(納税額用)か市町村発行の住民税課税決定通知書の提出を求める」ようになって来ました。

 この結果、住宅ローンをめぐる不正利用は一時の勢いを落とした感がありますが、一部のワルグループは”先行投資”をしてでも住宅ローンを引出そうと新手を繰り出します。それが『正規の公的証明書の不正取得』という手口です。

 会社を設立して従業員を雇ったり個人事業を起こして、架空の給与を支払ったことにしたり架空の所得金額を申告ところまでは手口①と同様です。違うのはこの架空の給与額や所得額に見合う所得税を納税することです。これが”先行投資”にあたります。

 税務署のミッションは徴税であるので、会社や個人事業者が所得額を過少申告したり納税しない場合には調査をしますが、所得の源泉が把握できていないものについて納税がされた場合には給与支払いや所得の源泉の有無を調べることは行いません。結果として、納税証明書(納税額用)は正規発行されますし、申告された所得額は市町村に通知されることにより、住民税課税決定通知書も正規に発行されるのです。

 金融機関の審査担当者は勤務先の確認なども行いますが、これもワルグループが指定した電話番号にしておけば「はい、△△商事です。弊社のAでございますか。あいにく只今営業に出ておりまして帰社は17:00過ぎとなります。折り返しお電話させましょうか。」と応答するぐらいは朝飯前と云うわけです。

 早期延滞・デフォルトが発生した後、事件性を理由に税務署に照会し首尾よく回答を得られたとしても、確かに納税されているし証明書も税務署・市町村が発行したものであるために足が付きにくいのです。さらに、詐取事実の発覚を遅らせるためにしばらくの間(半年から1年程度)はローン返済を続けるというオプションも加えたりします。

 この場合も手口(1)で述べた3つの観点は審査上有効です。ただ審査をすり抜けた案件がデフォルトした場合には、それが不正利用であったかどうか自体が判然としないままになる可能性が極めて高いということです。

 こうなると不正利用の予防策として金融機関が打てる手は極めて限定的です。金融機関の間での住宅ローン競争は相変わらず続いていますが、そんな中でも事業上の取引があり信頼できる業者を囲い込む一方で、一見の業者からの持込みには取り合わないスタンスの金融機関も少なからずありますが、これは不正利用リスク≒早期延滞・デフォルトリスクを回避するためでもあるのです。

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