住宅ローンの信用リスクマネジメント ②リスクマネジメント上の課題


■ 今回のポイント

  • 住宅ローンは返済期間が長期にわたるので、本来は、長期間に渡る返済・デフォルトデータを裏付けにした期待損益を推計する必要があります。
  • しかし、民間金融機関の多くは、個人情報保護法施行までは公庫融資の借換えによりデフォルト期間構造を強く意識することなく成功体験を積み上げてきました。
  • 現在は、民間金融機関は当面の収益性に偏りすぎた住宅ローン獲得競争を行い、過剰な信用リスクを抱え込んでいる可能性があります。

②リスクマネジメント上の課題

採用された信用格付けモデルを前提とすれば、それぞれの格付区分に対して値付け(金利設定)に応じた期待損益が推計できます。
但し、一般的にどの格付区分でも、デフォルト確率PDは融資当初は相対的に低く、3年目から7ないし10年目までが高い傾向を示します。これはデフォルトの期間構造と呼ばれていますが、住宅ローンは返済期間が長期にわたり、その間にお客様には様々なライフイベントが発生するので、貸手側は当面の収益性だけに目を奪われることなく長期間に渡る返済・デフォルトデータを追いかけ続けて、ヒストリカルな裏付けをもった期待損益を推計する必要があるのです。

この点で、民間金融機関には未知の(と云ってもいい)課題が潜んでいると筆者は感じています。

以前も触れましたが、民間金融機関が住宅ローンに熱心になったのはバブル崩壊後であり、かつ、リテール戦略の要と位置付け始めた(=個人情報保護法施行までの)10年間は自行が扱う住宅金融公庫融資借入者に対して、数年間返済状況をウオッチした上で延滞なく返済している方(=上澄み層)をターゲットに借換勧誘攻勢をかける手法が圧倒的主流を占めていました。

この手法が継続できたならば、よほどの経済環境の激変がない限りデフォルトの期間構造を精査しなくとも住宅ローン事業の収益性は確保できていたはずです。

ところが近年は、個人情報保護法により個人情報の目的外使用が禁止されていることもあって、以前のように手元にある情報で借換勧奨ができる潜在顧客が底を突いているので、金融機関同士での目先のお客様の奪い合い・低金利競争が熾烈化し、将来的にデフォルト可能性を孕んだ顧客層にまで踏み込んだ融資が行われるようになっています。

つまり、今現在自行で取り込んでいるお客様の信用リスク水準を、従来から蓄積していたデータから推計しようとしても、所詮は直近10年程度かもっと短い期間のデータしか持っていないというのが殆どの金融機関での実態なのです。

逆説的に云えば、個人情報保護法施行までの成功体験が当面の収益性に偏りすぎた住宅ローン獲得競争に走らせた主要因であり、そろそろ「住宅ローンは儲かる」との盲目的な思い込みから脱するべき段階に来ていると云えそうです。
金融庁や日銀が住宅ローンの収益性管理に厳しい目を向け始めた理由の一つはここにあるのです。

さて、信用リスク格付けモデルも、金利変動等のマクロ経済情勢やお客様側のローン借入に対する意識の変化、さらには個別金融機関の行内事情(戦略・方針の変化や資金状況)などによって、刻々実態や戦略ターゲットとのズレが生じてきます。そこで、PDランクや信用スコア値を導出する変数・パラメータは、適宜最新のデータでシミュレーションしチューニングされるのが当たり前になっています。

また、将来の大きな経済情勢変化に耐えられるかどうかをみるため、或いは信頼できるデータ蓄積期間が確保できていない場合に収益性を手堅く検証するために、信用格付けモデルの説明変数を信用スコアが悪化する方向にシフト(例えば新規貸出金利を実際の適用金利+プラス2%に設定するなど)させて、PDをシミュレーションすることも行われます。これがいわゆるストレステストです。

信用コストをコントロールする上でもう一つ考慮しなければならない課題としては不正申込みの防止があります。この問題は、長期に渡る返済期間中でのお客様の返済能力喪失とは直接的には関係がなく、そもそも何らかの虚偽申請に起因し、それを貸し手側が審査で見抜けなかった場合にデフォルトとして顕在化するものです。

このコントロールは、ITの世界でウイルスチェックソフトのパターンファイルを追加・更新するのと同様に、不正事例が発見されるたびに防御策を構築するという歴史的経過を辿って来ていますが、不正申込みの防止については、また稿を新たに起してお話しをしたいと思います。

今回は信用リスクのマネジメントについて紹介しました。次回は信用リスクに比べても分析が進んでいないプリペイメントリスクについてお話をします。

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