住宅ローンのプリペイメントリスクマネジメント ①プリペイメントリスクとは?


■ 今回のポイント

  • 住宅ローンにおけるプリペイメントリスクとは、期限前償還による将来利息収入の機会損失リスクのことであり、信用リスク等に比べると、金融機関の取り組みはまだまだ途上と言えます。
  • 例えば、固定期間選択型住宅ローンでは、経験則として、固定期間終了前後に全額繰上返済のピークが顕著に現れます。このような経験則をきちんと理論化するのが、プリペイメントリスク分析です。
  • プリペイメントリスク分析には、借換時の金利差、年収、融資額、本人/子供年齢等の影響因子が比例的に影響すると考える、「Cox比例ハザードモデル」がよく使われます。

①プリペイメントリスクとは?

以前の稿でも触れましたが、長期返済が前提の住宅ローンにはプリペイメント(期限前償還)リスクが存在します。

預金金融機関は要求払預金や期間1~3年の定期預金を主な原資として住宅ローンを貸し出します。この【短期原資で長期貸出】という構造に起因して流動性リスクや金利リスクが発生するというお話しはすでにしました。これは金融機関にとっては根源的なリスクですが、バブル崩壊後の20余年が「預金は集まるが貸出先がない=預貸率低下」、「金利は一貫して低下ないし横ばい傾向」のため、流動性リスク、金利リスクとも顕在化していません。

一方、住宅ローンの世界では、契約上の返済期間は25~35年に及ぶものの、実際の返済期間は平均15年前後と云うのが実態です。つまりお客様の多くは返済途上でまとまった余裕資金ができるたびに残債務の一部または全部を返済してしまう行動をとるのです。今や多くの銀行がローン獲得競争の一環として繰上返済を無料で行えるようにしているため、金利低下時の借換競争と相俟ってますますプリペイメントが顕著となっています。

また全額繰上返済の発生は住宅ローンの商品性にも左右されており、固定期間3年や固定期間5年などの固定期間選択型住宅ローン商品では経験則として、固定期間終了時に金利リセット又は変動金利への移行が行われるのを嫌い、その前後に全額繰上返済のピークが顕著に現れます。例えば固定期間5年ローンにおける経過月数別全額繰上返済率の推移は下図のようなイメージとなります。

経過月数別全額繰上返済率(イメージ)

プリペイメントは、貸したお金が確実に回収されるという点では問題ないはずですが、住宅ローン収益性への影響という観点から見ると、プリペイメントが可能な顧客層はデフォルトの心配がない優良顧客であるという点で将来利息収入の機会損失であり、住宅ローン債権プール全体としては収益性の悪化要因となります。

しかし、住宅ローンという商品の収益性を測る場合に、従来から金貸しの常識として信用リスクの計測とそれに基づくリスクコントロールはやって来たものの、プリペイメントによる収益性への悪影響がコントロールするべき課題として浮上してきたのは極めて最近のことです。

ではプリペイメントのシミュレーションはどんな手法で行うのでしょうか。

今現在、プリペイメントリスク対応の緒についた金融機関が採用している手法としてはCox比例ハザードモデルと呼ばれる数理モデルが主流のようです。(信用リスク分野でも信用格付けモデルの評価・検証手法として多く使われています。)

Cox比例ハザードモデルは、医療分野において患者の死亡確率を経過時間と複数の因子(説明変数の組合せ)で説明するモデルとして登場しました。
経過時間をt、死亡に影響する因子をx1,x2,x3,・・・,xn、各因子の影響の大きさをβ123,・・・,βnとしたとき、ハザード関数は次の式で表されます。(数理式が登場してやや難解かもしれませんがイメージを掴んでください。)

ハザード関数 λ(t|x1,・・・,xn) = λ0(t)exp(β1x1+・・・+βnxn)

この式の意味合いとしては、患者の死亡率は単純に時間に依存する部分λ0(t)とその他の影響因子に依存する部分exp(β1x1+・・・+βnxn)の掛け合わせで決まるというものです。時間に依存する部分はベースラインハザードと呼び、プリペイメントの期間構造を表現することができます。その他の影響因子に依存する部分は影響因子の組合せに指数関数的に死亡率が影響されるということを表しています。

【比例ハザードモデル】と呼ばれるとおり、影響因子xi(例えば喫煙習慣)を有する人は有さない人の○倍死亡リスクがあるというのは、exp(β1x1+・・・+βnxn)がλ0(t)の○倍(時間依存部分への掛け合わせ)だということです。

このモデルを住宅ローンのプリペイメント分析に適用し、融資実行後の経過月数をt、プリペイメントに影響する因子をx1,x2,x3,・・・,xn、各因子の影響の大きさをβ123,・・・,βnとしたとき、上記ハザード関数でプリペイメント率λ(t|x1,・・・,xn)を表すことになります。

ここで、影響因子x1,x2,x3,・・・,xnの候補としては、例えば、借換時の金利差(=現在の借入金利-新規ローン金利)、年収、融資額、PD(デフォルト確率)ランク、本人年齢、子供年齢、各種マクロ経済指標などが挙げられます。

注:本稿で紹介したグラフは、すべて筆者の経験に基づいて想定データを作成し、そのデータをグラフ化したものです。

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