住宅ローン不正利用の防止 ①古典的手口と対策(ワルと貸し手のイタチゴッコ)

■ 今回のポイント

  • 住宅ローンのデフォルト原因を見ていくと、何らかの経済的困窮だけではなく、端から返済意志がなかったり、使用目的の一部に不正があることが引き金となっているケースがあり、貸し手には大きなダメージとなります。
  • 不正利用の古典的手口としては、住宅取得費水増しや投資目的でのローン組成が挙げられます。
  • 住宅取得費水増しの防止策は取得単価の妥当性チェックにとどまらざるを得ませんが、投資目的の住宅ローン組成防止は名寄せの仕組み構築でかなり実効が上がっています。

①古典的手口と対策

住宅ローンの貸し手にとって、デフォルトリスクは債権プール(同一年度に実行した住宅ローンの集合体)の目標収益が達成できる範囲内に抑え込みたいものですが、顕在化したデフォルト債権を事後検証してみると、デフォルト原因が異なるグループに大別できます。

第1グループは、少なくともローン実行時点では借入人に返済する意思があったが、その後の生活状況やライフステージの変化、収入減、金利の変更、失職、転職、勤務先の倒産などにより事後的に返済が困難化した、いわゆる困窮グループです。もちろん借入者本人の杜撰な計画なども絡む複合的な原因であることが多いのですが、少なくともマイホームを実現しようという気持ちや夢をもってローンを組んだ人たちです。このグループに属するデフォルトは、時々の経済情勢に左右される部分は大きいものの、概ね借入後2,3年目からポツポツと発生し始め、5~7年目辺りでピークを迎えて、10年を越えるとピークアウトして徐々に減っていくというカーブを描きます。

もう一つのグループは、そもそも当初から返済意志がなかったり、ローンの一部又は全部を詐取又は本来目的とは異なる使途に使うつもりで虚偽の申込みをし、デフォルトに至るいわゆる不正利用グループです。このグループの人達ははなっから返すつもりがありませんので、デフォルトの発生は借入直後から2,3年経過時辺りまでに集中します。

貸し手にとっては、たかだか数%の利息から信用リスクを含む経費を差し引いた額が収益(通常融資総額の1%未満)ですから、ローン実行からほどなくデフォルトされてはたまりません。したがって、不正利用グループを債権プールに紛れ込ませない対策は極めて重要な意味を持ちます。

今回はこの不正利用グループに着目し、どんな手口があってどんな対策が取られているのか、対策手段としてシステムがどう関わっているのかをみていきますが、住宅取得の実体はあるけれども、多めに借りたいとか、車も買いたいなどの欲求から事実と異なるローン申請がなされる場合(正規の動機と不正の混合型:本稿では半ワルと呼びます。)も多いので、半ワルも含めて不正の手口とそれに対するシステム面を含めた対策などをお話します。

<古典的手口①:価額水増し>

住宅ローンで不正利用が出現し始めた(厳密には貸し手に広く認知され始めた)のは1980年代半ばの住宅金融公庫融資枠拡大からでしょう。手口としては住宅取得者・事業者間での二重契約とローン希望額水増しです。

例えば、本来価額3,000万円の住宅について、住宅取得者・事業者間では3,000万円の契約書(実際の対価)と3,500万円の契約書(ローン申込み目的)の2通りを作成し、ローン申込みには後者を使い、手持金を350万円(虚偽契約書上の価額の10%)として3,150万円のローンを借りるなどの手口です。成功すれば、手持金を注ぎ込まずに本来価額全額に加え諸費用(登記費用、不動産取得税、引越代など)も賄えるというわけです。この手口は住宅取得者と事業者との間に何らかの通謀が成立することが前提となります。

これに対しては、地域別や工法別、場合によっては住宅事業者グループ別に貸し手独自の標準単価と許容範囲(例えば坪当たり標準単価70万円+15万円)を設定し、許容範囲であれば「取得費には不正なしと見做す」、逸脱していれば「他の審査項目を含めて慎重に審査する」などの審査態度を取るわけです。この標準単価+許容範囲をテーブル化してシステム内でチェックする機関もあるでしょう。(当然ながら、グルーピング形態などは貸し手ごとの審査上の機密です。)

或いは、手持金が本当にあるかどうかを預金通帳の写しで確認したり、前回のコラムで取り上げた個人信用情報照会結果のホワイト情報と照らし合わせたりしながら総合的に信憑性を判断することになります。

ただ既にお気付きのとおり、貸し手側が行えるチェックは地域、工法又は事業者グループ等ごとの相場に照らした妥当性チェックなので、一定に効果はあるのですが、半ワルを完全に排除することは実態上困難です。

<古典的手口②:投資目的>

 時は昭和末期から平成初期にかけて、正にバブル経済の頂点に上り詰めようとしていたとき、財テク(この言葉自体が懐かしい語感ですが)が流行り、一個人が自己居住用と称して複数の住宅(その多くはマンション)を複数の住宅金融公庫融資を組成して取得する事例が新聞でも報道され会計検査院からも問題視されました。筆者は、最大で11件の住宅取得・住宅ローン組成をした方をはじめ、合計で何千人もの複数住宅取得・複数住宅ローン組成があったと記憶しています。

当時の住宅金融公庫でも、都市・田園住宅融資としてセカンドハウスへの融資が住宅施策として実施されていましたが、問題となったのはセカンドハウスとしてではなく、自己居住用として当時の最優遇金利の適用を受けて住宅を取得し、その住宅を賃貸するなどして投資収益を享受していたことです。

確かに当時の審査の仕組みでは、お客様が申し込む金融機関を変えて、場合によっては地域的に異なる物件を取得すると、金融機関が保有するCIF番号で突合することができず、かつ、住宅金融公庫でも突合の手段を持っていませんでした。

ただ貸し手にとって救いだったのは、この不正では投資用住宅が空家にならなければローン返済金の延滞やデフォルトは起きにくく、また契約違反としてローン契約の解除に踏み切っても、返済資力のある債務者が多かったために貸し手がダメージを受ける事例はあまりありませんでした。

今では隔世の感がありますが、このような事態を受けて再発防止のために構築されたのがお客様情報の名寄せシステムです。これにより少なくとも旧住宅金融公庫融資やフラット35では、自己居住目的のローンを複数借り入れることは不可能になっています。(配偶者や子息の名義で実質複数口はあり得るでしょうが)

この名寄せの仕組みはその後進化を続けて、収入合算者(=連帯債務者)を含めた名寄せに発展しており、また、ほぼリアルタイムに近いタイミングで行われるようになっています。

  
  

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